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東京地方裁判所 昭和60年(行ウ)39号 判決

原告(1)

今村博幸

原告(2)

児玉憲男

被告(1)

品川区長

多賀榮太郎

被告(2)

品川区議会議長菅家秀夫

被告両名訴訟代理人

近藤善孝

主文

本件訴えを却下する。

訴訟費用は原告らの負担とする。

事実及び理由

一訴状によれば、原告らは本訴において「昭和六〇年三月二六日品川区議会で議決された品川区職員定数条例の一部を改正する条例は無効であることを確認する。訴訟費用は被告らの負担とする。」との判決を求めるものであり、請求原因は次のとおりである。

1  昭和六〇年三月二六日に品川区議会で議決された品川区職員定数条例の一部を改正する条例(以下「本件改正条例」という。)は学校警備員の定員を三四名減少させる内容を含むものであるが、地方公務員法二八条一項四号は過員を免職事由にしているから、右定員削減は学校警備員の労働条件を規定するものである。したがつて、関係労働組合との合意がなければ右定員を削減することはできない。

2  ところが、右条例改正については品川区学校警備労働組合との間で合意が出来ていない(東京都地方労働委員会で係争中である。)。

3  よつて、本件改正条例は地方自治法一四条に違反し、無効である。

二およそ裁判所は、憲法に特別の定めのある場合を除いて、法律上の争訟についてのみ裁判をする権限を有するものであり(裁判所法三条一項)、右の法律上の争訟といえるためには、特定の当事者間における具体的な法律関係または権利義務に関する紛争でなければならない。したがつて、本件改正条例の内容が原告らの具体的な法律関係または権利義務に直接影響を及ぼすものでない限り、同条例自体の無効確認請求が許される余地はない。

三本件改正条例(正式には、昭和六〇年三月三〇日公布の品川区条例第三号「品川区職員定数条例の一部を改正する条例」)によれば、品川区職員定数条例(昭和五〇年三月品川区条例第四一号)二条一項のうち一号(区長事務部局の職員定数二六六六人)、三号(教育委員会事務部局の職員定数二九四人)及び四号(教育委員会の所管に属する学校の事務部局の職員定数七三七人)をそれぞれ一六九四人、二八三人及び七〇三人に改め、同改正の施行時期は昭和六〇年四月一日とするか、向う一年間は三〇人を限度として過員を許容している(本件改正条例付則1及び2)。

しかし、本件改正条例の制定・施行によつても、右施行日において右各号に該当する品川区職員の身分を有している者が当然にその身分を失うものではなく、地方公務員法二八条一項四号に基づく分限の処分を受けた場合に、その者に限つて同分限処分の効力として右身分に変動を生じるに過ぎない。そうすると、各原告が品川区職員であり、本件改正条例の対象となつた職員定数に含まれる者の一人であるとしても(右身分が無ければ原告適格を欠くことになる。)、本件改正条例の制定・施行それ自体は、原告らの右身分上の法律関係または権利義務に直接の影響を及ぼさないものであり、抗告訴訟の対象となる処分に当たらない。したがつて、本件訴えは不適法であつて、その欠缺は補正することができない。

四よつて、被告適格を審究するまでもなく本件訴えを却下することとし、訴訟費用の負担につき行訴法七条、民訴法八九条、九三条一項本文を適用し、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官山本和敏 裁判官太田幸夫 裁判官大島降明)

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